文部省科学研究費補助金・特別推進研究報告

研究課題;「ハドロンの系統的測定によるクォークグルオンプラズマのための基礎的研究」

研究代表者;筑波大学・物理学系・教授 三明康郎

文部省で行われた報告会資料より


@研究の目的


クォーク・グルオンプラズマ(QGP)
我々の宇宙を構成する素粒子(ハドロン)は、クォークとグルオンが閉じ込められた状態と考えられており、これらクォーク、グルオンの運動状態は量子色力学によって記述される。量子色力学の計算によれば、非常に高温高密度になると、閉じ込めから開放されて、クォークとグルオンのプラズマ状態(QGP)に相転移すると予測されている。ビッグバン宇宙の極めて初期には宇宙はQGP状態として存在したと考えられている。QGP相転移がその後の宇宙にどのような影響を与えたかなど、物質の存在形態として全く未知なるクォーク・グルオンプラズマを検証し研究することは、原子核、素粒子、宇宙物理の基本的問題であるだけでなく、人類の自然認識の根幹に関わる大問題に答えるものであろう。

相対論的高エネルギー重イオン衝突
相対論的高エネルギー重イオン衝突では、静止質量の数十倍〜数百倍もの運動エネルギーを持つまでに加速された原子核が互いに激しく衝突し、そのエネルギーが原子核程度の小さな空間領域に放出される。このため、高温高密度状態となった反応中心部では、通常物質からQGP状態への相転移をひきおこすであろうと予測されている。筑波大学計算物理学研究センターで行われているような最近の量子色力学の数値計算によると、相転移の起こる臨界温度は150MeV程度でエネルギー臨界密度1〜2GeV/fm3と考えられており、高温高密度状態を作り出すことのできる高エネルギー重イオン衝突ではこの臨界を十分超えると考えられている。米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)や欧州の原子核研究機構(CERN)では、高エネルギー重イオン衝突を利用したQGP相転移の研究のため加速器の建設がつぎつぎに進められている。BNLでは以前より核子あたり15GeVに加速された酸素やシリコンのビームを用いた実験が行われているが、高エネルギー重イオン衝突型加速器(RHIC)の建設も同時に進められており、平成11年度には実験を開始する予定である。一方、CERNでは、平成6年より核子あたり160GeVの鉛のビームの加速が始まっており、QGPを示唆するような興味深い現象が発見されている。

ハドロン測定の物理と飛行時間測定器
何をもってQGP生成の証拠とすればよいか様々な実験的方法が提案されている。なかでも重要なものとして次に述べる3つの方法がある。
(1)平均横運動量の増加;パイ中間子だけからなる高温度高密度状態ではパイ中間子の新規生成のために温度がパイ中間子の質量程度以上には上昇しない。ところがQGPではその制限がなくなるので、温度の上昇が期待される。実験的には、温度に相当するパラメーターである平均横運動量の増加を検出する。
(2)巨大ハドロンガスの発生;量子色力学ではクォークやグルオンの状態を記述するため、新たにカラーの自由度が導入される。クォークやグルオンはカラーの自由度を持つが、ハドロンは全体としてカラーが無色でなければいけないという制限がある。このため、ハドロン状態からQGP状態への相転移ではカラーの自由度が解放され、系の自由度が劇的に増加するという大きな特徴がある。衝突で生成されたQGPが様々な冷却機構によって再びハドロン相に戻る相転移においては、系の自由度即ちエントロピー密度が劇的に減少する。すると、エントロピー保存から体積の巨大なハドロンガスの発生が予測される。これは、極めて特徴的な現象である。
(3)ファイ中間子の質量変化;筑波大の初田ら(本研究グループに所属)の計算によると、高温高密度状態ではベクター中間子の質量は減少する。特にファイ中間子のK中間子への崩壊モードはその質量差が小さいため、分岐比等に大きな影響が現れると期待される。
これらの実験的方法を以て、QGP生成の証拠とするには高エネルギー重イオン衝突の反応の正確な知識が必要となるが、これらの衝突で考えられる反応は非常に複雑で現在の知識では、正確に予測することが難しい。種々の高エネルギー重イオン反応模型や導入パラメーター値に依存しないで、QGP生成の実験証拠を得るためにはビームエネルギーに関して相転移臨界前後の大きな変化を捉えるなどの系統的測定を必要とする。

本研究の目標
本研究では、より基礎的データを積み上げ、反応機構の基礎的知見を得ることを第一の目標としている。反応中心部において生成されるパイ中間子、K中間子、陽子など実験的に明確に粒子識別されたハドロンの系統的測定を様々なエネルギー、即ち、BNLの15GeV、CERNの160GeV、さらに衝突型加速器における実験まで系統的に収集し、QGP生成を理解するために必要な反応機構の基礎的知見を得る。その上で、上述のハドロン測定による3つの重要と思われる検証データについて検討し、QGP相転移の確実な証拠としたい。
ハドロンの系統的測定のためには優れた粒子識別能力を備えた実験装置を建設することが必要不可欠で、飛行時間測定器(TOF)が我々の目的に即している。高時間分解能を持つTOF装置の技術を持つ筑波大学のグループが、CERN−SPS(WA98)実験及RHIC(PHENIX)実験のための飛行時間測定器を製作し、両実験においてハドロンの系統的測定を行う。


A当初研究計画

(平成6年度研究計画調書より抜粋)

平成6〜7年度は、1000セグメントを持つ高時間分解能飛行時間測定器を製作する。特に、平成6年度には、その1部をテストし、最終的性能を確認したうえで量産に入る。平成6年度の設備費は主にこのテストのためである。
平成8年度より、CERNの実験(WA98)において、1粒子包括測定、2粒子相関測定を行い、衝突で達成された温度、密度等の基礎的データを収集する。核子あたり160AGeVの鉛ビームを静止標的核に入射するこの実験では反応中心部に高温、高バリオン密度状態が生成され、われわれが行ってきたBNL実験以上のエネルギー密度が達成されよう。平成9年度からは、得られたデータの解析を行うための計算機を購入するが、本研究上重要な要素のひとつである。
平成10年度より、BNL−RHICにおいて実験を行う。ここでは、100GeV+100GeVのより高エネルギー反応であるため、高温ではあるが、バリオン密度の低い状態が実現される。ハドロンの測定は、衝突の反応機構を理解する上で必要不可欠な情報を与えるのみならず、ストレンジネス生成量やファイ中間子のハドロン崩壊の分岐比等の測定は、QGP生成の実験的証拠として重要である。
これらの1連の系統的測定によって、高バリオン密度状態のハドロンの振舞と低バリオン密度状態の比較を行うことができる。この比較は、特に2次的衝突問題を理解する上で重要な情報を与える。また、QGP生成の信号の理解に重要な理論計算との比較の際に、粒子密度や達成温度、化学平衡の有無等、十分な制限を加えることとなり、必要不可欠の情報をあたえる。


A当初計画の達成度


平成6年度;
高時間分解能飛行時間測定器の設計、プロトタイプの製作及び性能の確認を行った。本研究で製作する高時間分解能飛行時間測定器はエネルギーも異なる欧州共同原子核研究機構(CERN)WA98実験と米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)PHENIX実験の両実験において使用される。そのために、測定器の設置、移動が容易であるようにモジュラー構造を持つように設計した。それぞれのパネルは96本の独立したカウンターから構成され、全体として10パネルからなる飛行時間測定器となる。BNLの実験は衝突型加速器における測定であるので、数百MeVの低い運動量領域から測定対象となる。そこで、飛行時間測定器の基材となるボードについて最小の質量で最大の強度を得るために最新の航空機材料であるカーボンファイバー・ハニコム構造を採用した。これらの設計に基づき、平成6年10〜11月にかけてプロトタイプを作成した。12月と3月には高エネルギー物理学研究所のテストビームを利用して、性能の最終確認をおこない、計画通りの性能を挙げていることを確認した。さらに、これらの設計の妥当性を検討するため、CERNにおける核子あたり160GeVの鉛・鉛衝突反応の計算機シミュレーションを行った。スペクトロメーターの設計を行い、飛跡検出の精度と効率、運動量測定の精度等について検討し、問題なく測定を行えることをシミュレーションにより確認した。

平成7年度;
平成6年度に達成された飛行時間測定器プロトタイプの成果をふまえ、飛行時間測定器の量産を開始した。多くの大学院生の協力を得て、筑波大学で飛行時間測定器の製作を行い、CERNに搬入した。設置のための架台についても筑波で作成し納入した。平成7年7月より西村助手と大学院生2名がCERNに常駐し、設置作業を進めた。8月にはCERNのパイ中間子ビームを用いて実験の読み出しトリガー回路の調整作業及びテストを行った。より低横運動量のファイ中間子測定のための飛跡検出器の製作も共同で進めている。11〜12月の鉛ビームを用いた実験において予備測定を行い、飛行時間測定の時間分解能として120ピコ秒を得ることができた。飛跡検出器、飛行時間測定器のバックグラウンドや粒子検出効率の試験だけでなく、パイ中間子、K−中間子の予備的データの収集を行うことができた。中心ラピディティ領域の低横運動領域について、1粒子包括測定を行い、衝突で達成された温度や化学平衡の有無等の基礎的データを収集することができた。また、集団運動の検出を試みる測定を行った。
読み出し回路については以前より、コロンビア大学(ネヴィス研)との協力によって進めた。世界初のパイプライン方式の時間読み出し回路で、高時間分解能飛行時間測定器に最も適した回路となっている。この読み出し回路のため、コロンビア大学では専用の集積回路の開発から行った。読み出し回路の制御プログラムは筑波大学が担当し、そのために大学院生1名と栗田講師がニューヨークに常駐して開発作業に取り組んだ。平成8年2月には読み出し回路の最終試験を高エネルギー物理学研究所において行い、80ピコ秒以下の時間分解能が得られることを確認し、生産を開始した。

平成8年度;
読み出し回路の製作を完成し、CERNに設置を行い、当初計画通りにCERN(欧州共同原子核研究機構)における最終測定のための実験を平成8年11〜12月に無事に終了した。本科研費で製作した高時間分解能飛行時間測定器について目標としていた時間分解能85ピコ秒以下という時間分解能が得られていることが、最終データ上でも確認され、その性能を充分に発揮することができた。データ解析を進めており、多重飛跡解析、粒子識別も問題なく行えることを確認した。
11〜12月の鉛ビームを用いた実験で収集したデータにおいて、集団運動が観測され、平成8年秋の日本物理学会に於いて報告を行った。従来の観測からは見つからないとされてきたもので、160AGeVの重イオン衝突において観測されたのは世界で始めてである。160AGeVの重イオン衝突では、QGPによるデバイ遮蔽効果と考えられるJ/Ψ抑制効果異常も発見されており、集団運動を用いて反応面決定が可能となると、ハドロン生成の反応面依存性という新しい分析方法を手に入れることとなり、多くの研究者がこの問題に多大な興味を示した。平成8年度の測定データでは、さらにこの効果の解析を進め、1粒子包括測定のみならず、2粒子相関測定においても、集団運動が観測された。これらの解析結果について、平成9年3月にインドで開かれた国際会議で三明が座長を務める中で、本研究グループの西村助手及び大学院生の倉田美月が招待講演を行った。160AGeVにおける初めての報告となった。

平成9年度;
データ解析が研究活動の中心となった。CERNから西村助手と大学院生が帰国し、平成7〜8年度に収集したデータの解析を筑波大学で行った。大学院最先端設備費によって飛跡解析装置を導入し、計算時間のかかる飛跡解析を行った。このためにジュネーブ大学の研究者2名が平成9年7月頃に1ヶ月滞在した。また、秋にはCERN・WA98実験の共同研究者会議を筑波大学にて開催し、海外より30名の研究者が参加した。
解析の統計精度の向上、系統的誤差の評価等を進めることができた。集団運動の解析方法等についても格段の向上が図られ、結果の信頼性が向上した。本研究分野において最も権威ある国際会議である高エネルギー原子核原子核衝突国際会議「クォーク物質’97」を平成9年の12月に筑波大学・大学会館にて開催した。今までは米国と欧州のみで開催されてきたが、第13回会議の今回初めて日本で開かれることとなった。本研究班の八木とコロンビア大の永宮が組織委員長、本研究班の初田と本研究班代表の三明が事務局を務めた。本研究など日本の研究者の研究活動が国際的に広く認識された結果であろう。本研究の結果について、平成9年3月、インドの国際会議における招待講演に引き続き、「クォーク物質’97」国際会議でも西村助手を初めとする4編の論文報告がなされ大きな反響が得られた。発表原稿の販売部数において、我々の研究成果への関心が高いことがわかった。
核子あたり160GeVのデータ収集はすべて完了し、質量共に満足のいくデータとなったので、当初計画通りに米国ブルックヘブン国立研究所におけるPHENIX実験に向けて飛行時間測定器の移設を行った。再調整の要する部品については筑波大にて実施してから、米国ブルックヘブン国立研究所に搬送した。平成9年3月から佐甲助手と大学院生2名の常駐体制を取った。

平成10年度;
平成9年度までに、ほぼ確立された反応面決定方法を1粒子解析、2粒子解析に適用した分析を開始した。集団運動の一つのモードであるDirected Flowは標準模型(RQMD)の約半分の強度であることが確認された。他の集団運動モードであるElliptic Flow解析では、K+中間子は標準模型の反対の符号を持つことが確認された。いずれも世界初の分析結果であり、論文発表を次々に行っている。高エネルギー重イオン衝突の標準模型からのずれは極めて興味ある状況である。QGP証拠の一つである状態方程式の軟化と考えられるのか、また、K+中間子の振る舞いはIn-medium potentialを初めて明快に示したものなのか、今後の理論解析が待たれる。
我々の飛行時間測定器の測定準備は、当初計画通り9年度末までに、ほぼ完了していたが、米国ブルックヘブン国立研究所におけるPHENIX実験は、加速器建設、実験装置の建設の遅れのために、当初計画から約1年遅れ、1999年開始となった。

達成度のまとめ;

★ 当初研究計画通りに、高時間分解能飛行時間測定器を開発・製作を行った。予定していた時間分解能85ピコ秒を得、高多重度下において粒子識別に成功した。
★ コロンビア大学(ネヴィス研)との協力により、世界初のパイプライン方式の高時間分解能読み出し回路を開発した。
★ 製作した高時間分解能飛行時間測定器、読み出し回路をCERN・WA98実験に飛跡測定器と共に設置し、平成7〜8年度に1粒子包括測定、2粒子相関測定を行った。平成9年度までで核子あたり160GeVまでのハドロンの系統的測定を完了した。
★ 思いがけない測定成果として、160AGeV重イオン衝突における集団運動の発見があった(世界初)。反応面決定方法を1粒子解析、2粒子解析に適用した分析を開始した。集団運動の一つのモードであるDirected Flowは標準模型(RQMD)の約半分の強度であることが確認された。他の集団運動モードであるElliptic Flow解析では、K+中間子は標準模型の反対の符号を持つことが確認された。いずれも世界初の分析結果である。
★ 製作した高時間分解能飛行時間測定器、読み出し回路を米国ブルックヘブン国立研究所におけるPHENIX実験に向けて飛行時間測定器の移設をほぼ完了した。当初計画では、平成10年度から測定を開始する予定であったが、加速器建設、実験装置の建設の遅れのために、当初計画から約1年遅れ、1999年開始となった。


C研究成果公表の状況


主な論文一覧
・ Time of flight techniques in high energy heavy ion experiments, Y. Miake, American Institute of Physics 340: 78-89, 1995.
・ Recent Results Ffrom E859 At the BNL AGS, B.A. Cole, Y. Miake et. al., Nucl. Phys. A590 (1995) 179c-196c.
・ Particle Production in Au+Au collisions, Y. Akiba, Y. Miake et. al., Nucl. Phys. A610(1996)139c-152c
・ Photon and Neutral Meson Production in 158 A GeV Pb-208 + Pb Collisions. T. Peitzmann, Y. Miake, S. Nishimura, K. Yagi et. al., Nucl. Phys. A610 (1996) 200c-212c.
・ The centrality dependence of the source size for Au-Au collisions at the AGS. M.D. Baker,Y. Miake H. Sako et. al.,Nucl. Phys. A610(1996)213c-226c
・ Interferometry Results from the CERN WA98 Experiment, M. Aggarwal, Y. Miake, S. Nishimura, K. Yagi et. al., Nucl. Phys. A610 (1996) 256c-263c.
・ A gas Cherenkov beam counter with timing resolution of 30 ps for relativistic heavy ion experiments. T. Chujo, Y. Miake, S. Nishimura, K. Yagi et al., Nucl. Inst. & Meth. A383, 409-412 (1996).
・ Production of phi mesons in central Si-28 + Au-196 collisions at 14.6 A GeV/c. Y. Akiba, K. Kurita, Y. Miake, et.al., Phys.Rev.Lett.76:2021-2024,1996
・ Baryon emission at target rapidities in Si+Al,Cu,Au collisions at 14.6A GeV/c and Au+Au collisions at 11.7 A GeV/c. L. Ahle, Y. Miake et.al., Phys. Rev. C55, 2604-2614, 1997
・ Two-particle rapidity correlations from the Bose-Einstein effect in central Si-28 +Au collisions at 14.6A GeV/c and intermittency. Y. Akiba, Y. Miake et.al.,Physical Review C56:1544-1552,1997
・ Particle production at high baryon density in central Au+Au reactions at 11.6 A GeV/c. L. Ahle, Y. Miake et.al.,Physical Review C57:R466-R470,1998
・ Proton, deuteron, and triton emission at target rapidity in Au+Au collisions at 10.20A GeV: Spectra and directed flow, L. Ahle, Y. Miake et.al.,Physical Review C57, 1416-1420, 1998
・ Search for disoriented chiral condensates in 158A GeV/c Pb+Pb collisions. M.M. Aggarwal, Y. Miake, S. Nishimura, H. Sako, K. Yagi et.al., Phys. Lett. B420(1998) 169-179
・ Electromagnetic Signatures of QGP (Photons): Experimental Status, Proc. of Phys. and Astrophys. of QGP,111-120
・ Search for Disoriented Chiral Condensates: An experimental perspective, Proc. of Phys. and Astrophys. of QGP,167-180
・ Directed Flow Analysis in Pb+Pb Collisions at 158 GeV per Nucleon, Proc. of Phys. and Astrophys. of QGP,258-269
・ Production of Neutral Mesons in 158 AGeV Heavy Ion Collisions at CERN SPS, Proc. of Phys. and Astrophys. of QGP,471-474
・ Experimental Search for DCCs Using Robust Observables Proc. of Phys. and Astrophys. of QGP,499-502
・ Search for Disoriented Chiral Condensate by Wavelet Method in Pb+Pb Collisions at 158 A GeV, Proc. of Phys. and Astrophys. of QGP,532-536
・ First Evidence of Directed Flow at CERN-SPS Energy from WA98 Experiment, Proc. of Phys. and Astrophys. of QGP,549-553
・ Analysis of WA98 Hadronic Spectra in Ng and Nch Event Classes, Proc. of Phys. and Astrophys. of QGP, 589-594
・ Au+Au Reactions at the AGS: Experiments E866 and E917, Nucl. Phys. A638(1998) 57c-68c
・ Recent Results on Pb+Pb Collisions at 158 A GeV from the WA98 Experiment at CERN Nucl. Phys. A638(1998) 147c-158c
・ Present Status and Future of DCC Analysis Nucl. Phys. A638(1998) 249c-260c
・ Systematics of Hadron Production - Probing the Final and Initial States, Nucl. Phys. A638(1998) 415c-418c
・ Centrality and Collisions System dependence of Antiproton Production from p+A to Au+Au Collisions at AGS Energies, Nucl. Phys. A638(1998) 427c-430c
・ Collective Flow in 158A GeV Pb+Pb Collisions, Nucl. Phys. A638(1998) 459c-462c
・ The PHENIX Experiment at RHIC, Nucl. Phys. A638(1998) 565c-570c
・ Directed Flow in 158 AGeV Pb+Pb collisions", Submitted to Phys. Rev. Lett.
・ Centrality Dependence of Neutral Pion Production in 158 A GeV Pb+Pb Collisions, Accepted by Phys. Rev. Lett.
・ Freeze-Out Parameters in Central 158AGeV Pb+Pb Collisions, To be submitted to Phys. Rev. Lett.
・ Elliptic Flow of Kaons and Pions in 158 AGeV Pb+Pb collisions", To be submitted to Phys. Rev. Lett.
・ Systematics of Inclusive Photon Production in Pb+Pb, Nb, and Ni Collisions at 158A GeV, To be submitted to Phys.Lett.B
・ The pion-nucleon coupling constant in QCD sum rules, H. Shiomi and T. Hatsuda, Nucl. Phys. A594(1995)294-310.
・ Phi meson in Nuclear Matter, H. Kuwabara and T. Hatsuda, Prog. Theor. 94(1995)1163-1167
・ Light Vecor Mesons in Nuclear Matter, T. Hatsuda, H. Shiomi and H. Kuwabara, Prog. Theor. 95(1996)11009-1028
・ UA(1) symmetry restoration in QCD with Nf flavors, S. H. Lee and T. Hatsuda, Phys. Rev. D54(1996)R1871-R1873
・ What thermodynamics tells us about the QCD plasma, A. Asakawa and T. Hatsuda, Phys Rev. D55(1997)4488-4491
・ Tensor charge of the nucleon in lattice QCD, S. Aoki, T. Hatsuda and Y. Kuramashi, Phys. Rev. D56(1997)433-436
・ Optimized Perturbation Theory fpr Wave Functions of Quantum Systems, T. Hatsuda, T. Kunihiro and T. Tanaka, Phys. Rev. Lett. 78(1997)3229-3232
・ Pade improvement of the free energy in high temperature QCD, T. Hatsuda, Phys. Rev. D56(1997)8111-8114
・ Soft modes associated with chiral transition at finite temperature, S. Chiku and T. hatsuda, Phys. Rev. D57(1998)R6-R9


国際会議講演一覧

・ Y. Miake, "Relativistic heavy-ion collisions, proving Quark-Gluon Plasma in the early Universe.", Invited talk at the international symposium on "Origin of Matter and Evolution of Galaxies in the Universe", January 18 - 20, 1996, Atami, Japan.
・ Y. Miake, "Particle production and flow at AGS and SPS", YITP International Workshop on Physics of Relativistic Heavy Ion Collisions, June 9 - 11, 1997, Kyoto, Japan.
・ Y. Miake, "Collective Flow in Heavy Ion Collisions at CERN-SPS WA98", International Workshop on Contemporary Physics, April 30-May2, Seoul, Korea.
・ Y. Miake, "PHENIX Experiment and Signatures of QGP", International Workshop on Contemporary Physics, April 30-May2, Seoul, Korea.
・ S. Nishimura, "Directed Flow Analysis in Pb+Pb Collisions at 158 GeV per nucleon", 3rd International Conference on Physics and Astrophysics of Quark-Gluon Plasma, ICPAQGP' 97, Jaipur, India.
・ M. Kurata, "Evidence of Directed Flow at CERN-SPS energy from WA98 experiment" 3rd International Conference on Physics and Astrophysics of Quark-Gluon Plasma, ICPAQGP' 97, Jaipur, India.
・ S. Nishimura, "Collective Flow in 158AGeV Pb+Pb Collisions", 13th international conference on Ultra-relativistic Nucleus-Nucleus Collisions; QM97, December 1-5, 1997, Tsukuba, Japan.
・ H. Sako, "Centrality and collision system dependence of antiproton production from p+A to Au+Au collisions at AGS energies", 13th international conference on Ultra-relativistic Nucleus-Nucleus Collisions; QM97, December 1-5, 1997, Tsukuba, Japan.
D当該学問分野及び関連分野への影響


ハドロン生成の系統的測定データの提供
筑波大学のグループの誇る高時間分解能測定器をてこにして、1AGeVから160AGeVまで、一貫した手法で粒子識別・ハドロン解析を行い、反応中心部において生成されるパイ中間子、K中間子、陽子など実験的に明確に粒子識別されたハドロンの系統的測定データを提供できることが出来た意義は大きい。

反応面依存性の研究手法の確立
160AGeVの従来の観測からは見つからないとされていた集団運動が適切な粒子識別を行った観測を行うと可能であることを初めて示した。この解析手法は低エネルギーの重イオン衝突でなされていたものであるが、反応中心領域と非関与部の分離が十分でない低エネルギーでは単純な吸収により、興味ある現象があっても遮蔽されてよく見えないという問題があった。集団運動を用いて反応面決定が可能となると、ハドロン生成の反応面依存性という新しい分析方法を手に入れることとなり、従来の観測では平均値しか観測されなかった物理量がより詳細に分析できることとなった。

K中間子のIn-medium potential(!?)
反応面依存性観測から、集団運動モードの1種であるElliptic Flow解析では、K+中間子は、K−中間子やパイ中間子とは、反対の符号を持つことが確認された。標準模型では、パイ中間子や陽子については定量的に説明されるが、K+については反対の符号、K−については強度が合わない。反対符号を説明するには、カイラル摂動模型で予想されるIn-medium potentialの影響と考えられるが、定量的理論解析はこれからである。これが理論解析でも確認されれば、今までは間接的に存在が予言されていたものであるが、極めて明瞭にその影響を示した初めてのデータとなる。今後の理論解析が待たれる。

QGP生成問題への影響
QGP証拠の一つとして、相転移点に於ける状態方程式の軟化現象がある。状態方程式の軟化すると、圧力が高まらないために、圧力勾配によって決定される集団運動の強度が低下すると期待される。我々の観測によると集団運動のモードであるDirected Flowは標準模型(RQMD)の予測値の約半分であることが確認された。12AGeVでは標準模型は観測値よりやや小さな値を予測することが知られており、160AGeVの重イオン衝突では状態方程式に何らかの変化が起きていることを示唆しているのかもしれない。今後のより詳細な理論解析が待たれる。

QGP説に基づくJ/ψ抑制効果解釈への影響

CERNのNA38/50実験グループは、J/ψ粒子の収量を様々な衝突において測定を行ってきた。陽子と原子核の衝突から硫黄+ウラニウム衝突に至るまで徐々にJ/ψ粒子の収量が一様に減少し、通常の核物質中におけるJ/ψ粒子の2次的衝突によって失われたものと定量的に理解されている。ところが、鉛原子核同士の衝突では、この指数関数的減衰から、さらに減少していることが観測された。QGP説が有力視されている。
しかしながら、本研究班の明らかとしたように、反応初期から存在する集団運動があると、J/ψ粒子の初期生成量が減少すると考えられる。この効果を定量的に取り入れた上でJ/ψ粒子の初期生成量を検討する必要がある。