高時間分解能飛行時間測定器の運用、解析
昨年度の核子対あたり130GeVの金・金衝突に引き続き、本年度の核子対あたり200GeVの金・金衝突においても高時間分解能飛行時間測定器は順調に運用され、飛行時間測定によるハドロン粒子識別に貢献をしている。
解析は現在進行中であるが、すべての要素を含めた分解能が100ピコ秒程度の時間分解能が得られつつある。昨年度にくらべ十分な統計量が得られたため、2001年のデータからハドロン測定に関する主な結果が得られるであろうと期待している。
陽子・陽子衝突のための衝突検出器の製作、運用
高エネルギー原子核・原子核衝突特有の現象を明らかにするためには、AGSやSPSでなされてきたように、陽子・陽子衝突〜陽子・原子核衝突との系統的比較が必要である。一方で、PHENIX実験のトリガー装置はビームラピディティに近い速度を持つリーディングパーティクルで事象選択を行っており高エネルギー重イオン衝突では幾何学的断面積のほぼ100%を検出しうるが、陽子・陽子衝突においては幾何学的断面積の半分程度しか事象選択されない。また、粒子識別に必要な飛行時間測定の開始時間測定の時間分解能も不十分である。このため、陽子・陽子衝突におけるハドロン識別・測定専用のトリガー装置の設計・製作を筑波大のチームが行った。ハドロン識別・測定を行う観測領域内に専用のプラスチックシンチレーター・ホドスコープを新たに8組設置し、2001年12月から1月にかけて行われた陽子・陽子衝突実験において運用を行った。そして、計画通りの性能を発揮することが出来、新設された検出器をスタートタイミングとした飛行時間測定による粒子識別にも成功している。陽子・陽子衝突のデータ解析も現在鋭意進められている。
物理解析
筑波チームではハドロンの方位角異方性の解析に軸足をおいた解析を進めている。方位角異方性の解析方法による結果の安定性やジェットなどの影響などの検討を進めるとともに、2001年のデータから粒子識別を伴った方位角異方性の解析や高運動量粒子によるJet Tomographyを進めている。
高運動量領域の粒子識別能力
2000年のデータ解析から、 横運動量分布を中心衝突と周辺衝突を比較すると中心衝突では高運動量成分が 減少するという現象が見つかった。これはSPSでは見られなかった全く新しい現象であり、QGP中のJetQuench効果ではないかと研究者の注目が集まっている。
QCDによるとJetQuench効果はクォークジェットにくらべグルオンジェットに より強く現れると期待され、運動量分布の変化以外にも、高運動量領域における陽子・反陽子比 などの粒子生成比の変化となって現れることが予言されている。 様々な粒子の様々なチャンネルにおいてQGP固有の現象を捕まえようとするPHENIX実験の 基本戦略から考えても、今後数年後に予定されているPHENIX実験のアップグレードにおいて ハドロンの高運動量領域における粒子識別能力を高めることは重要である。
PHENIX実験には、筑波大学のチームが中心になって開発・製作した飛行時間測定器 (時間分解能100ピコ秒以下)、さらにエタンやCO2ガスをラディエーターとするRing Imaging Cherenkov Counter(Index;1.00041-1.00044)が既に稼働しており、アエロジェロチェレンコフ カウンター(Index 1.01)を新たに付加することによって、10 GeV/c程度までの 陽子/K中間子/パイ中間子の選別が可能となる。
筑波大のチームではアエロジェロチェレンコフカウンターの 開発研究を始めた。2001年12月にはBNLやロシアなどのチームと協力してKEKでアエロジェロチェレンコフカウンターのテスト実験を行った。今後さらに連携を深め、2年計画で開発・製作を進めていく。