高エネルギー重イオン衝突では宇宙創生時に匹敵する程の高エネルギー密度状態が生成されると期待されている。高エネルギー重イオン衝突で反応時に生成される高密度・高温状態ではクォークは個々のハドロンへの閉じ込めから解放され比較的大きな領域を自由に飛び回る状態(クォーク・グルオンプラズマ状態)が生成されると期待されている。米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)では世界初の衝突型高エネルギー重イオン加速器(Relativistic Heavy Ion Collider)が新たに建設され、2000年夏から運転が開始された。2001年夏には最高エネルギーである核子あたり100GeVの金の原子核同志の衝突実験が可能となる。反応中心部の数百fm3の領域において、2〜6GeV/fm3ものエネルギー密度が達成されると予測されており、これは、未だかつて人類が手にしたことのない最高エネルギー密度である。また、量子色力学(QCD)が予測するクォーク・グルオンプラズマ(QGP)相転移に必要なエネルギー密度を十分に越えていると考えられている。
上図はRHICで行われる主要実験の一つであるPHENIX実験である。この実験では予想されるなるべく多くのQGP生成のシグナルを同時に測定するために、生成されるレプトン対(ミュー粒子対、電子対)、光子、ハドロン(K中間子、パイ中間子、ファイ中間子、
陽子、反陽子等々)を測定する。そして、衝突で達成されたエネルギー密度の関数としてQGP生成を示すアノマリーを同時に検出することによってQGP生成の証拠とする。3つのスペクトローメーターから構成され、中央スペクトロメーターは飛跡再構成用の種々のトラッキングチェンバー、粒子識別用リングイメージングチェレンコフカウンター、高時間分解能飛行時間測定器、電磁カロリメーターから成り立っている。筑波大学では高時間分解能飛行時間測定器の開発・製作を進めてきていたが、2000年夏の実験では時間分解能115ピコ秒を達成していることが確認された。粒子識別も明瞭になされた。飛行時間測定器を用いたハドロン測定では、QGPによる<pt>の増大、ストレンジネス生成量増大、HBT効果測定による巨大ハドロン生成源の発生、集団運動強度による状態方程式の研究などが行われる。