陽子・陽子衝突測定専用トリガー装置(t-zeroカウンター)

RHICにおける陽子・陽子衝突実験の必要性;

高エネルギー重イオン衝突は反応の時空発展を含む複雑な現象であり、今までの知識だけでは未知のエネルギー領域の重イオン衝突を理論的に正確に予測することは困難である。前人未踏のエネルギー領域であるRHICにおいて、高エネルギー原子核・原子核衝突特有の現象を明らかにするためには、AGSやSPSでなされてきたように、陽子・陽子衝突〜陽子・原子核衝突との系統的比較が必要である。特にQGP相転移に伴う信号の有意性を検証する際には、同一エネルギーにおける陽子・陽子衝突〜陽子・原子核衝突との比較が極めて有効な方法である。

陽子・陽子衝突測定のための専用トリガー装置の必要性;

高エネルギー衝突であるといえども、原子核・原子核衝突よりも陽子・陽子衝突や陽子・原子核衝突の粒子多重度は遙かに小さく、実験技術的観点からは容易である。しかしながら、現在のPHENIX実験のトリガー装置はビームラピディティに近い速度を持つリーディングパーティクルで事象選択を行っており高エネルギー重イオン衝突では幾何学的断面積のほぼ100%を検出しうるが、このような装置では陽子・陽子衝突や陽子・原子核衝突においては幾何学的断面積の半分程度しか事象選択されない。荷電粒子多重度の測定から推測することは出来るかもしれないが、推測の結果がどの程度信頼できるかは実際に観測しない限り不明のままである。推測による結果は偏った結果となる恐れもあり、我々の目的とする系統的比較には適さない。また、粒子識別に必要な飛行時間測定の開始時間測定の時間分解能も不十分である。

t-zeroカウンターとは;

陽子・陽子衝突におけるハドロン識別・測定専用のトリガー装置の設計・製作を筑波大のチームが進めてきた。ハドロン識別・測定を行う観測領域内に専用のプラスチックシンチレーター・ホドスコープを8組設置し、トリガーを発生すると同時に粒子発生時間の測定を60ピコ秒以下の精度で行う。

計画の状況;

平成12年度に筑波大の大学院生を中心にして必要な設計を行い、プロトタイプのビームテストをKEKのテストビームチャンネル(T1)を利用して行った。目標の時間分解能を得られることを確認した。平成13年度8月上旬までに製作を完了し、PHENIX実験磁石のモックアップモデルを用いた設置予行演習、セットベータ線を用いたチェック、宇宙線による性能確認テストの後に、8月30日に米国に向けて搬出を行った。

写真集;

8月6日8月10日、