クォーク・グルオンプラズマとは

 通常の低温の原子では、電子は原子核のまわりに電気的な力によって束縛されている。原子核は、その電荷の数と同数の電子をまとっているため、原子は全体として中性の状態にある。ところが、放電などによって加熱されると、電子は原子核の束縛を逃れ出ることができ、原子は原子核を中心とした正イオンと自由電子に解離する。この状態は、プラズマと呼ばれている。通常の原子核は、陽子と中性子(総称して核子と呼ぶ)から成り立ち、これらの核子は3つのクォークから構成されている(クォークには、u、d、sクォークなど6種類存在すると考えられている)。クォークから構成される粒子には、核子などのように3個のクォークからなる重粒子のほかに、クォーク・反クォーク対から成る中間子がある。これらのクォークは、それぞれの重粒子あるいは中間子に強く束縛されており、けっして単独で飛び出すことが出来ないという不思議な性質を示す。さて、原子核を圧縮して核子間距離が核子の拡がり程度になるまで縮まると、おそらく核子の境界はもはや意味を持たなくなり、クォークは自由に動き出すと考えられる。パイ中間子を高密度に発生させ、たがいに重なり合う程になった場合でも同様にクォークは粒子の境界を越えて動きだすであろう。クォークが核子や中間子への閉じ込めから開放されて、クォークとクォーク間相互作用を伝えるグルオン(糊の粒子)が自由に動き回れる状態を原子におけるプラズマ状態とのアナロジーから、クォーク。グルオン プラズマ(QGP)と呼ぶ。この予想は、筑波大学計算物理学センターなどに於ける超並列計算機を駆使した量子色力学(QCD)の計算からも裏付けされている。このクォーク・グルオンプラズマを高エネルギー原子核・原子核衝突を用いて実験室で作り出し、その性質を探ろうという計画が進められている。