高エネルギー原子核・原子核衝突

物質の存在の形態として全く未知なるクォーク・グルオンプラズマ(QGP)は、自然界ではビッグバン宇宙創生直後には実現されていたと考えられているが、高エネルギーの原子核と原子核の衝突を用いると、実験室でも生成が可能であると期待されている。
衝突の様子を現在の知識で正確に予言することは難しい。様々な仮定に基づいたモデル計算がなされている。(衝突の様子を示すムービー

QGP生成のシナリオには次の2通りが考えられている。

 

 

 

1)核子あたり10〜100GeVの原子核ビームを用いる方法。

核子あたり10GeV〜100GeV程度に加速された原子核を静止した原子核標的に入射させると、激しい衝突の結果、標的核中で停止する。このとき、ビームによって持ち込まれた運動エネルギーはローレンツ収縮した原子核程度の体積に集中的に解放されるので、非常に高温度高密度状態が実現し、QGP状態への相転移を起こす。この方法では、原子核を加熱圧縮して、核子を”溶融”することによってQGPをつくるため、核子を構成していたu、dクォークを多く含んだQGPとなる。

2)核子あたり100GeV +100GeV以上の衝突型加速器による方法。

1)で述べた停止領域よりもさらに高エネルギーになると、衝突を起こした原子核も停止することなく、互いにすりぬけて飛び去る。その後に多くのクォーク・反クォーク対が発生し、その密度が十分高いときには、QGP相転移を起こす。こうして作られたQGPには、核子は材料として含まれないので、QGP中のクォークと、その反クォークの数は等しい。様々な衝突理論に基づく予想がなされている。

いずれの方法でも反応で達成されるエネルギー密度は高く、QGPに相転移を起こしうると期待されている。