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付着物の分析

本検出器で用いている有機ガス(イソブタン、エチレン、イソプレン)を材料と して化学反応により生成される可能性のある有機物は、クロロホルムに溶けると 期待される。そのことから、付着物が有機物なのか無機物なのか判別することが できる。24時間運転後の陰極をクロロホルム中で30 分間の超音波洗浄を行っ たところ、陰極表面の付着物はクロロホルムに溶けることが分かった。溶融した 有機物は約8mgであった。しかし、洗浄後の表面には洗浄しても溶けない微量 の物質が残っていることが視認できた。これはクロロホルムに溶けないことから 無機物であろう。この無機物は、有機物と陰極(アルミ)との酸化などの反応に より作られたか、放電により陰極が酸化した可能性が考えられる。

付着物の有機成分を核磁気共鳴分析を行った(筑波大学分析センター)。図 6.4は、その結果である。図の(1 )と(2 )のピークは、$ CH_2$$ CH_3$ であることが推定され、ピーク周辺のなだらかな分布は飽和炭化水素 と見られるとの見解が得られた。このことから付着物の有機成分は、$ CH_2$$ CH_3$によって生成されたポリマーと考えられる。有機ガスの中で、エチレンと イソプレンは二重結合を持つために化学反応を起こしやすく、放電によってエチ レンとイソプレンの二重結合が壊れ、それらの再結合によってポリマーが生成さ れたと考えられる。

図 6.4: 筑波大学分析センターで行った付着物の核磁気共鳴分析。
\includegraphics[width=10cm,clip]{fig_14_9.eps}

付着物の電子なだれ発展プロセスへの影響を調べるために、有機物成分の紫外光 吸収を調べた(図6.5)。キセノンランプでからの光を分光器に より特定の波長領域の光を選別し、物質中での吸収を比較することが出来る。エ タノール50ccに付着物8mgを溶かしたサンプルでの吸収とエタノールのサンプル を比較することによって測定が行われた。使用した分光器の下限である200 nm から230 nm の紫外光で吸収が起こることがわかった。

本機で使用した混合ガスの光吸収を図6.6に示す。陰極材料のアル ミニウムの仕事関数を図中に示すが、クエンチャーとしての混合ガスの吸収領域 とアルミニウムの仕事関数にギャップが存在し、その領域に丁度付着物の吸収領 域がほぼ一致している様子がわかる。従って、付着物は微量でありながら、放電 成長において大きな影響を示したものと推測される。

図 6.5: 電極付着物の紫外光吸収(筑波大学分析センター)。
\includegraphics[width=10cm,clip]{fig_14_11.eps}

図 6.6: 本機で使用した混合ガスの光吸収。
\includegraphics[width=10cm,clip]{fig_14_12.eps}



平成13年5月2日