ALICE 国際共同実験
ALICE 国際共同実験チームは、CERN 研究所(スイス)にある世界最大の加速器 LHC (Large Hadron Collider) を用い、高エネルギーに加速した原子核衝突反応をとらえ、初期宇宙と物質の起源に関する研究を行っています。本実験の目的は、同衝突によって世界最高のエネルギー密度物質を生成し、そこに現れる「強く相互作用する素粒子間の物性研究」です。このような状態では、クォーク・グルーオン・プラズマ (Quark-Gluon Plasma, QGP) と呼ばれる物質の極限状態が生成されます。この状態は、宇宙ビッグバンから数10μ秒後の初期宇宙と同じ状態であったと考えられています。したがって、Q G P状態を実験室で再現し、それがどのように陽子・中性子などの物質へと進化するのかを調べることにより、クォークとグルーオンの閉じ込め機構、陽子・中性子の質量の起源など、物理学上の重要かつ未解決な問いに答えを得ることができます。ALICE では、重い原子核(鉛 208Pb など)同士の衝突で生成されるハドロン、電子、ミュー粒子、光子の包括的な測定を行なっています。 ALICE はまた、陽子-陽子衝突、陽子-原子核衝突、原子核-原子核衝突、など様々な衝突系で実験を行い、それらを比較することでQGP の生成を明らかにします。2021 年に ALICE は検出器の大幅なアップグレードを完了しました。今後その機能をさらに強化し、LHC 加速器を使った初期宇宙状態、QGPの研究を行う予定です。2029年には新たな検出器 FoCal を導入し、QGP生成起源に関する研究を開始します。
ALICE 実験 web page:
https://alice-collaboration.web.cern.ch/
FoCal プロジェクト
前方カロリメータ検出器 FoCal (Forward Calorimeter)プロジェクトは、2029年に物理測定の開始を目指す、ALICE 実験のアップグレード計画の1つです。FoCal は、2020 年 6 月、FoCal の実験提案書 Letter of Intent (LoI)は LHCC国際委員会にて正式に承認され、現在、技術設計報告書 (TDR) に向けた最終の研究開発を行なっています。日本グループは FoCal-E PAD 検出器の主担当(責任者:中條(筑波大学))です。
FoCal 検出器は、超前方(3.2 < η < 5.8)の領域を覆う前方カロリメータ検出器です。FoCal は、電磁カロリメータである FoCal-E と、ハドロンカロリメータである FoCal-H から構成されます。FoCal-E は、日本が主に担当するFoCal-E PAD 検出器と、ユトレヒト大学等が主導する FoCal-E PIXEL 検出器に分かれます。いずれもシリコンセンサーを用いており、FoCal-E PAD は光子のエネルギーを、PIXEL は光子の位置を正確に測ることができます。これらを組み合わせることで、カラーグラス凝縮に敏感なプローブである直接光子やπ0中間子の測定が粒子密度の高い超前方で始めて可能となります。
FoCal の物理プログラムはユニークかつ、既存の ALICE 物理プログラムを大幅に拡張します。例えば、前方領域における中性中間子(π0)、直接光子、ジェットの包括・相関測定が可能です。それらの測定により、原子核内におけるグルーオン分布の世界最高精度の測定、カラーガラス凝縮 (CGC) の有無および性質解明、クォーク・グルーオン・プラズマの生成の生成機構について、明確な答えを得ることが期待できます。
CERN EP news letter の記事:
https://ep-news.web.cern.ch/content/towards-focal-alice-experiment