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問題点

高時間分解能、高検出効率などの利点にもかかわらず、 ペストフ・スパークカウンターは 今までに主要な実験ではほとんど用いられていない。それは、高いガス圧を要求 するために高圧容器が必要であることや高圧ガスを循環しなければならないなど の製作・運用面の難しさが指摘されてきたが、最近になって、より深刻な問題が 発生することが明らかになった。

ペストフ・スパークカウンターを用いて粒子の飛行時間を測定すると、飛行時間分布は 図2.2のように、一成分のガウス分布ではなく、 分布にTailが現れたり、ガウス分布 が二成分の二重構造を示すことガなどがわかってきた [*]。 カウンターの分解能としては、主成分であるガウス分布の幅が提示されるが、第 2成分であるTailは数100ps程度の広がりをもち、希ガスとしてアルゴンを用いた とき、全体の10%程度を占めることが知られている。 そのため、このようなTailが存在すると10%程度のK中間子と π中間子の分離など、飛行時間法による粒子識別が困難になる。 2重構造の原因は理解されていないが、その振る舞いについては ドイツのGSI研究所で詳細なデータが収集されている。

図 2.2: 観測された時間分布の2重構造
\includegraphics[width=10cm,clip]{fig_1_2.eps}

希ガスの種類による2重構造の第2成分の割合は希ガスの種類で大きく 変化することが報告されている。 希ガスの種類が変化すると、電子の電離電圧が変化するため、電離を起こすまで の電子の平均自由行程が変わる。また、光子の励起電圧や 電離損失も変化する。これは、ガス中での放電過程の様相が 変化することを示唆していると考えられる。

この2重構造は粒子識別のための飛行時間分布測定としては致命的な欠陥である。 2重構造を示す可能性のある原因として、

などが考えられる。 ペストフ飛行時間測定器を実用化するためには、この問題を理解することが先決 と考えられたので、時間経過をたどった電離現象の計算機シミュレーションを行 い、まず、上述の4項目の効果について調べることにした。

平成13年5月2日