図4.1は電子なだれがギャップ中で電場方向に30発展したとき
の、電子なだれ
中の個々の電子がもつ時間の分布を示す。電子なだれ生成に要する時間であり、
分布幅が数ps程度の非常にシャープなガウス分布となっている。同様な計算を電
子なだれ発展距離の関数として計算を行った。得られた分布をガウス分布フィッ
トを行い、電子なだれ発展距離に対するガウス分布の平均値と幅を求めた。得ら
れた電子なだれ生成に要する時間を距離の関数として示す(図4.2)。
距離の増加に伴い、
直線的に増加していることがわかる。この傾きは電子なだれの伝播速度に相当し、
[m/s]と計算される。また、ペストフカウンターのギャップ
間隔である100
を電子なだれが発展するのにかかる時間は 106 psと推定さ
れた。図4.3は、同様にして得られた電子なだれ発展距離に対する、電子な
だれ中の電子が持つ時間分布の幅を示す。この傾向をペストフカウンターのギャッ
プ間隔である100
に外挿しても、時間分布の幅はたかだか 2.2 psであるこ
とがわかった。これらの計算から、観測されている数百psの遅れた信号、若し
くは時間分布の2重構造の原因として、電子なだれ発展過程における統計的ゆら
ぎは全く寄与しないことが結論される。
Meekの理論によると電子なだれ中の電子が個を越えるとストリーマーに転
換するとされる。図4.4は電子数が
個を越えるまで電子なだれが発展し
たときの、電子なだれ中の電子がもつ時間の分布である。この時間分布は模型1
のようにきれいなガウス分布にはならず、ややテイルをもった分布を示している。
模型1と同様に初期電子生成位置からの電子なだれ発展距離を変えて時間分布を
いくつか求め、発展距離に対して、電子の時間分布の平均値とRMSの分布を求め
た。図4.5は、電子なだれが発展した距離に対する、電子の持つ時間
の平均値を示し、図4.2と同様に発展距離に対して直線的に増加して
いる様子がわかる。この時の電子なだれ中の電子速度は
[m/s]と求まり、模型1における電子速度のおよそ3分の1であった。模型2では低
エネルギー電子の弾性散乱を取り入れたことにより、電子が電離を起こし得るエ
ネルギーに達しにくくなったためである。図4.6は距離に対する時間
分布幅(RMS)である。模型1と同様に電子なだれ中の電子数が
個に達する
まで発展したときの時間の揺らぎを外挿によって求めたところは 9 psと計算さ
れた。また、仮に模型1のように
個を越えて電子なだれが発展し、アノー
ドに到達するまで電子なだれをつくったとしても、時間揺らぎはたかだか
30 ps程度であると推定され、電子なだれ発展過程における統計的ゆらぎは
全く寄与しないことが結論された。